セルニャのメンバーが、チベット文学の邦訳作品を中心に本の紹介をするコーナーです。
さまざまな事情を抱えて田舎から上京してきた4人の若い女性たちが、チベットの古都ラサのナイトクラブ〈ばら〉で働きながら小さなアパートで身を寄せ合って生きている。彼女たちのしたたかな生き方と、やがて訪れる悲痛な運命を慈愛に満ちた筆致で描いた長編小説の邦訳。
しかばねと旅する主人公に課されたのは、しかばねが語るお話がどんなにおもしろくても、口をきいてはいけないということ……。チベットの人々に長く愛されてきた『しかばねの物語』を、親しみやすい日本語訳とさし絵で味わえる1冊です。
チベットを代表する現代の7名の女性詩人による27篇の詩を収めた詩集。チベットの女性が現代詩を発表してから40年。妊娠・出産する性である自らの身体を描き、女であることを讃美し、亡命への決意をつづり、これから歩むべき道を模索する。詩は、彼女たちが道を切り開くために必要な「武器」でもあった。詩を通してみえてくる彼女たちの姿には、わたしたちの歩んできた道も重ね合わされる。チベットの女性たちをとりまく事情を知るための7つのテーマ別コラムつき。
ヒマラヤ南麓に生まれた少年はダライ・ラマの化身と認定されながらも、仏教僧としての生活になじめず、自ら還俗。その後、街に繰り出しては恋に明け暮れ、詩を詠う若者となりました。彼は激動の17世紀を生き、23歳でその数奇な生涯に幕を閉じることとなりました。そんなダライ・ラマ6世のものとされる(または彼に仮託された)リズム感溢れる6音節4行詩は現在でもチベットの人々に広く愛唱され親しまれています。恋慕、逢瀬、別れ、再会の願い、といった恋愛の諸相ごとにまとめられた構成は、本書のオリジナルです。6世の人生、そして、その詩の特徴に関する2つの解説も収録しています。
チベットの現代作家たちが描く、現実と非現実が交錯する物語を集めました。伝統的な口承文学や、仏教、民間信仰を背景としつつ、いまチベットに住む人々の生活や世界観が描かれた物語の数々は、読む者を摩訶不思議な世界に誘ってくれます。時代も、現実と異界も、生と死も、人間/動物/妖怪・鬼・魔物・神の境界も超える、13の短編を掲載した日本独自のアンソロジーです。
チベット語チベット文学を牽引する作家ラシャムジャの日本オリジナルの作品集です。10歳の少年が山で父の放牧の手伝いをしながら成長していく姿を描く「西の空のひとつ星」、センチェンジャの横暴におびえる中学校の教室を舞台に気弱な男子ラトゥクが勇気を持つにいたる「川のほとりの一本の木」、村でたった一人の羊飼いとなった15歳の青年が生きとし生けるものの幸せについて考える「最後の羊飼い」、そして日本を舞台にした「遥かなるサクラジマ」など8作品を収録しています。
草原に暮らす羊飼いの家族たち。その穏やかな生活のなかにある、秘められた葛藤と孤独を描く表題作「風船」のほか、仏教的世界観と近代的価値観が混じり合う現実を生きるチベットの人々をユーモラスに、幻想的に、時にリアリスティックに描いた短編6作品を掲載。ほか、自伝的エッセイと、訳者解説も所収。映画監督としても注目されるペマ・ツェテンの小説家としての魅力、そしてチベット文学の魅力を伝えます。
英語チベット文学の祖、ペンバの遺作 White Crane, Lend Me Your Wings: A Tale of Tibetan Love and War の邦訳です。本作品は1925年に東チベットのニャロンという地にキリスト教伝道のために入った若きアメリカ人宣教師夫妻が、チベットという異文化と真剣に対峙し、布教では挫折しながらも、医療活動と子育てを通じて人びとと交流を深めていくさまを描くとともに、中国に呑み込まれていく激動の時代をチベットの人びとがどう生き抜いたかを、史実をもとに克明にかつチベット人らしいユーモアを交えて描いた長編歴史小説です。
生態移民、エイズの流行、官僚政治の腐敗……。一読すればリアルなチベット世界が垣間見える。ツェラン・トンドゥプはチベットでも屈指の人気を誇るベテラン作家。ドライで機知に富んだ文体から繰り出される作品の数々は、日本の読者にもきっと楽しんでいただけるはず。チベットのイメージがガラガラと崩れる「毒」があちこちに仕込まれているのでご注意あれ。
とぼけた味わいの、ときにブラック風味をきかせたユーモア小説の名手、タクブンジャ。人間の滑稽さや悲しさ、社会のゆがみなどを犬になぞらえて描いた犬シリーズが有名。他にも魔術的リアリズム風の実験小説あり、かつてチベットの村で起きた悲劇を描いたシリアスな小説あり、と様々なタイプの作品が楽しめる小説集。チベット流の語りの世界に身をゆだねてみてはいかが?
読みはじめたらすぐさまあなたの心はチベットの空の下。主人公の「ぼく」に誘われて村の中を駆けまわって愉快痛快。しかし大人になった「ぼく」は都会ですっかり引きこもり。故郷に帰ろうにも帰れない。辛い、辛すぎる。そんな「ぼく」の心を動かしたのは何?チベットの若者の心をぐっとつかんだ人気長編小説を世界初訳!
小説家として20年のキャリアを持ち、その後半の10年は自身で脚本も書く映画監督としても活躍するペマ・ツェテン。平易な言葉を用いながら芸術性の高い小説や映画を次々と世に送り出し、高い評価を受けています。映画のような小説を書き、小説のような映画を撮る稀有な作家、映画好きの方におすすめします!
1980年代前半、彗星のごとくあらわれ、少し古風な美しいチベット語でごく普通の若者たちの姿や民族の誇りを描いた作家トンドゥプジャ。彼の詩や小説は当時の若者たちを熱狂の渦に巻き込みました。チベット現代文学の祖と言われ、絶大な影響を与えたこの作家の作品集は、チベットの「今」を知るためにも必読。目からうろこのチベット文学史解説つき。