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風船 ペマ・ツェテン作品集

刊 行 2020年12月25日
著者等 ペマ・ツェテン (著)、大川謙作 (編訳)
出版社 春陽堂書店

作品紹介

草原に暮らす羊飼いの家族たち。その穏やかな生活のなかにある、秘められた葛藤と孤独を描く表題作「風船」のほか、仏教的世界観と近代的価値観が混じり合う現実を生きるチベットの人々をユーモラスに、幻想的に、時にリアリスティックに描いた短編6作品を掲載。ほか、自伝的エッセイと、訳者解説も所収。映画監督としても注目されるペマ・ツェテンの小説家としての魅力、そしてチベット文学の魅力を伝えます。

目次

  • 風船
  • 轢き殺された羊
  • 九番目の男
  • よそ者
  • マニ石を静かに刻む
  • 黄昏のパルコル
  • [エッセイ]三枚の写真から
  • [解説]大川謙作

著者紹介

ペマ・ツェテン

1969年、中国青海省海南チベット族自治州貴徳県生まれ。チベット語と中国語の二言語で創作を行う小説家であり、またチベット語母語映画の創始者とされ、数々の国際映画祭で受賞歴のある映画監督でもある。小説もフランスを始め世界各国で翻訳されている。2013年には、日本語版作品集である『チベット文学の現在 ティメー・クンデンを探して』も刊行されている。

訳者からひとこと

ペマ・ツェテンの二冊目の短編小説集になります。最初の訳書『ティメー・クンデンを探して』を訳した際に、その簡素ながらも不思議な魅力のある文体にすっかり惚れ込んで、勤務する大学での授業やゼミなどでペマさんの漢語小説を取り上げて、学生と一緒に幾つかの短編を読み、訳したものを『セルニャ』や『すばる』などに発表してきました。

そのようにして幾つか翻訳がたまってきたので、そのうち二冊目の翻訳も出版したいな、と思っていたのですが、そんな折、2019年ですが、ペマさんが自らの小説をもとに監督を務めた映画『風船』が東京フィルメックス映画祭に出品されることになりました。その後、この映画には配給がつくことになり、ペマさんの作品としては初めて日本で劇場公開されることになりました。そのタイミングで、ペマさんから映画の日本公開に合わせて、これまで発表してきた他の作品と合わせて二冊目の日本語作品集を出版してみてはどうかとの提案があり、映画の公開に間に合うように大急ぎで出版計画を進めることになりました。こうして出来上がったのが本書です。

映画の公開がちょうどコロナ禍と重なってしまったのは残念でしたが、同時期に映画と単行本の両方でペマ・ツェテンの作品を日本に紹介できたことは幸いなことでした。ペマさんは小説家としてよりは映画監督としての方が有名なのでしょうが、彼の小説には映画とはまた違った魅力があり、チベット現代作家の中でもユニークな存在であると思っています。小説と映画を見比べる楽しみもあります。多くの方に手にとってもらいたい作品集です。異文化への敬意という今最も必要とされていることが最も太い柱となってこの物語を貫いており、宣教師と領主の友情、そしてその息子同士の友情を通じて読者に訴えかけてきます。また、女性たちがしたたかに、また、激しく生きるさまがしっかりと描かれているのも大きな魅力です。そして異なる信条をもつ者同士の哲学的な対話は作家ペンバが真骨頂を発揮しているところです。日本版オリジナルの絵地図と詳細な解説つき。チベットになじみのない学生のみなさんにもぜひおすすめしたい作品です。

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