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チベット女性詩集 現代チベットを代表する7人・27選

刊 行 2023年3月31日
著者等 ゾンシュクキ・ホワモ・チメほか (著)、海老原志穂 (編訳)
出版社 段々社

作品紹介

チベットを代表する現代の7名の女性詩人による27篇の詩を収めた詩集。

チベットの女性が現代詩を発表してから40年。妊娠・出産する性である自らの身体を描き、女であることを讃美し、亡命への決意をつづり、これから歩むべき道を模索する。

詩は、彼女たちが道を切り開くために必要な「武器」でもあった。詩を通してみえてくる彼女たちの姿には、わたしたちの歩んできた道も重ね合わされる。

チベットの女性たちをとりまく事情を知るための7つのテーマ別コラムつき。

目次

  • ゾンシュクキ
    • 「やむことのない流れ」
    • 「ヤンチェンマ」
    • 「ふるさとでは」
    • 「雨音」
  • 【コラム1】「亡命した尼僧の話」(三浦 順子)
  • デキ・ドルマ
    • 「妊婦の記録」
    • 「母の記録」
    • 「消えた『わたし』」
    • 「草原の愛」
  • 【コラム2】「チベット文学に新しい風を吹き込んだ女性たち」(海老原 志穂)
  • オジュクキ
    • 「女二十歳」
    • 「歌が恋しくなる時」
    • 「生活という名の井戸底」
  • 【コラム3】「チベット仏教界と女性」(三浦 順子)
  • ホワモ
    • 「私に近寄るな」
    • 「私は女だ」
    • 「根こそぎ」
    • 「火」
  • 【コラム4】「フェミニズム運動は詩からはじまった」(海老原 志穂)
  • トクセー・ラモ
    • 「私とラサの距離」
    • 「神々にまもられるチベット人」
    • 「チベットよ 私はあなたを書いた」
  • 【コラム5】「チベット伝統医学の女医」(三浦 順子)
  • カワ・ラモ
    • 「ケルサン・ドルマの物語」
    • 「あなたはまちがっている」
    • 「涙なんてない」
    • 「ダムニェンを弾いて歌をうたおう」
    • 「消えないでほしいと思う」
    • 「小さな村を離れてゆく時」
  • 【コラム6】「詩に詠み込まれた牧畜風景」(海老原 志穂)
  • チメ
    • 「牧畜犬」
    • 「環」
    • 「遠くにきらめく星」
  • 【コラム7】「百年前に英国で出版『私のチベット』」(三浦 順子)
  • あとがき

著者紹介

ゾンシュクキ

ゾンシュクキ
1974年、中国青海省貴南県(チベットの伝統的な地域区分では東北チベットのマンラと呼ばれる地域に該当する)に生まれる。十代の終わりから詩の創作を始める。これまでに百編以上の詩をチベット語文芸誌に発表。詩集に『珊瑚の運命』(1999)、『やむことのない流れ』(2003)、『墓場』(2006)がある。群を抜いた表現力で海外のチベット文学研究者らの注目も集めている。2002年に家族とともにチベットを離れ、インド北部のダラムサラに亡命。13年間のインド滞在を経て、現在はオーストラリアのメルボルン在住。

デキ・ドルマ

デキ・ドルマ
1967年、中国青海省河南モンゴル族自治県(東北チベットのソクゾン)に生まれる。民族籍はモンゴル族だが、母語はチベット語。創作活動もチベット語で行う。地元の民族中学校在学時は、漢語とチベット語の教師が作家のツェラン・トンドゥプ、化学の教師が詩人のジャンプだった。創作の面でこの2人の男性作家から大きな影響を 受けた。詩を書き始めたのもこの頃。大学卒業後、中学校の教師をしていたが、黄南州紀律検査員会を経て、現在は婦女連合会に勤務。娘、妻、そして、母の視点で書かれた詩を多数発表している。詩集に『草原の愛』(2011)がある。

オジュクキ

オジュクキ
1983年、中国青海省貴徳県(東北チベットのティカ)の農村に生まれる。父親はチベット語教師として地元の中学校で長年、チベット文化の教育に熱意を傾けてきた。その父の影響を強く受け、読書の習慣が身についた。ちなみに父の教え子の一人が人気作家のラシャムジャ(邦訳書に『雪を待つ』『路上の陽光』)。大学在学中から自由詩や散文の創作を始め、2011年、優れたチベット人女性作家に贈られる祥母文学賞受賞。自身の内面に目を向け、揺れ動く複雑な心情を丁寧な言葉で表現した詩を数多く発表。好きなチベットの詩人はジュ・カザン。好きな日本の作品は村上春樹『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』、稲盛和夫『生き方』。現在、チベット医として青海省チベット医薬研究院勤務。

ホワモ

ホワモ
1966年、中国青海省剛察県(東北チベットのカンツァ)に生まれる。中学校時代、高僧のもとで古典文法学、詩学、仏教論理学などチベット文化の基礎を学ぶ。1994年に西北民族学院(現・西北民族大学)に入学、トルシェ高僧や文法学の大家ホワリ・サンジェ教授らに教えを受ける。修士課程修了後、同大学で教鞭をとるようになり、現在は教授。詩は十代から書きはじめ、これまでに詩、論文、随筆など多数を発表。詩集に『激しく躍動する文字たち』(2012)。チベット語による初の女性詩アンソロジーの編集など女性文学の地位向上に尽力し、チベットにおけるフェミニズム運動のリーダー的存在である。本書コラム「フェミニズム運動は詩からはじまった」参照。

トクセー・ラモ

トクセー・ラモ
1987年、中国チベット自治区ラサ市林周県(中央チベットのペンボ)の名刹として名高いレティン寺に近い町に生まれる。チベット語文芸誌『カンゲン・メト』を読んで詩の創作を志す勇気をもらい、チベット医学院卒業の頃から様々なチベット文芸誌に詩や散文を発表。2011年に祥母文学賞受賞。詩集に『チベットの女』(2014)がある。チベットを深く愛するがゆえにチベットを憂える、その複雑な心情を時にまっすぐで力強く、時に繊細な言葉で綴る。チベット現代文学の父ともいわれるトンドゥプジャの詩や小説、現在活躍中の詩人ジュ・カザンの作品を愛読。好きな日本文学は村上春樹『ノルウェイの森』。現在、チベット医としてラサ市内の中学校に勤務。

カワ・ラモ

カワ・ラモ
1978年、中国青海省天峻県(東北チベットのテムチェン)の牧畜村に生まれる。子供の頃からチベット語の文芸誌を愛読。創作活動を始めたのは大学卒業後2,3年経ってから。これまでに詩や散文が『カンゲン・メト』『ダンチャル』など様々な文芸誌に掲載される。詩には恋愛や結婚、女性の美しさを讃美したもの、チベット文化への愛情をテーマにしたものが多い。平易な表現と繰り返しを多用したリズミカルな文体が特徴。詩集に『雪の耳飾り』(2014)。2015年、優れた詩作品に送られるカンゲン・メト文学賞を受賞。現在は中学校の教員としてチベット語を教えるかたわら、詩の創作にいそしんでいる。

チメ

チメ
1967年、中国青海省同仁県(東北チベットのレプコン)の半農半牧の村に生まれる。1987年に青海民族学院(現・青海民族大学)チベット語学部卒業後、30年以上チベット語教師として地元の中学校に勤める。30歳の頃から創作を始め、多くのチベット語文芸誌に作品を発表。詩集に『月の夢』(2012)、『水の青春』(2016)がある。2022年、アメリカのバージニア大学とハーバード大学に招かれ、自身の創作とチベット人女性の文芸活動について講演を行う。ダンチャル文学賞、カンゲン・メト文学賞、野生ヤク文学賞などチベット文学界の主要な文学賞の受賞歴多数。

訳者からひとこと

本書は、チベットを代表する7人の女性詩人による現代詩27篇を選び、チベット語から翻訳した日本オリジナルのアンソロジーです。チベット女性詩としてはもちろん、チベット語から日本語に翻訳された現代詩としてはおそらく初の詩集となります。

収録した作品ひとつひとつをよんでも味わい深いですが、これらの詩を「チベット女性詩の展開」という文脈の中で見ると、彼女たちがどのような制約のもとで創作を行なってきたのかがみえてきます。

1200年もの間、仏教によって色づけられてきたチベットでは、文学作品は男性(主に僧侶)の手で書かれてきました。男性中心的な文学環境の中で、彼女たちが詩という手段で、どのような挑戦を行なってきたのか、テーマ別の7つのコラムを手がかりにぜひ読み解いてみてください。

漫画家・絵地図作家の蔵西氏がチベット各地で描いてきたスケッチの数々も、チベット女性詩をめぐる旅のよきおともとなってくれることでしょう。(海老原 志穂)

正誤表

本文中に以下のような誤りが生じました。謹んでお詫びして訂正いたします(訳者)。

  • 30頁5行目: トンドップ → (正) トンドゥプ
  • 90頁9行目:「春の輝き」(2014) → (正)「激しく躍動する文字たち」(2012)
  • 118頁1行目: 1988年 → (正) 1987年
  • 138頁1行目: 1977年 → (正) 1978年
  • 164頁1行目: 1964年 → (正) 1967年
(2023年4月24日現在)
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