M村の女性の仕事は、男性の仕事とは異なり、家内労働が中心の細々した仕事であり、また日常的な特質があり、また肉体労働であるという点に特徴がある。
女性の労働のうち、最も重要なものは、キムダクマと呼ばれる主婦の責任を果たすことである。一つの世帯には主が一人いるのと同様に、主婦も一人しかいない。主婦の役割は、子どもたちの母親が担う。年を取れば跡取り息子の嫁が徐々に主婦の座につく。一般に世の中では、姑と嫁の確執は、家庭内のもめごとに発展しやすいものだが、大抵の場合、主婦の地位の引き継ぎと関係があることは言うまでもない。M村では両親のもとに長男一家が同居することが多いため、長男が結婚して孫が生まれたあと、姑と嫁の関係がうまくいくかどうかが一家の幸せを左右する。重要なのは、主婦の地位を徐々に姑から嫁に委譲することである。主婦の地位とは、家庭の食事・料理を仕切る権限であり、鍋やひしゃくを誰の手に委ねるかという話である。従って女性の仕事の主なものは家族全員の食事を用意することであり、それが重要な責務なのである。鍋とひしゃくの管理は些細なことに思えるかもしれないが、家族は1日1食たりとも、主婦の提供する食事から離れることはできない。1日の食事には朝食、昼食、間食、夕食があるが、これらの食事時には、主婦が食べ物と飲み物をあつらえなくてはならない。主婦が食事を用意する技術のことを、M村ではラクズィと言う。ラクズィのある女性は家族全員を幸せにすることができる。世界中どこでも食にまつわる工夫と楽しみは幸せをもたらす源となっている。
こうした主婦の地位とは、権限でもあり責任でもある。家庭の小麦粉櫃や肉の貯蔵庫、じゃがいもと大根の貯蔵穴、茶箱、塩櫃、花椒入れ、各種の包丁やひしゃく、鉄鍋、深鍋、ポット、魔法瓶、各種の茶碗、箸や匙、布巾など、台所で必要なあらゆる物を適切に使用し、管理する責任と権限は主婦にある。これらを用いて家族全員に食事を提供する仕事は非常に細々としたもので、また途切れなく行わなければならない仕事である。こうした仕事がうまくできること、またそのために努力できることをM村の言葉で「ユクがある」と言い、その逆を「ユクがない」と表現する。ユクがあるかどうかは女性の評価基準となっている。ユクのある女性なら、家の中であれ外であれきっちりと仕上げ、家の中をピカピカに磨き上げ、家の中も回りも掃き清め、塵一つ残さずきれいにすることができるだろう。M村の人々は、家の中と外がきれいになっているかどうかを見て、その世帯の主婦にユクがあるかどうかを見定めているのだ。
女性の仕事の中で重要なものの一つに子育てがある。生まれたての赤ん坊のときから、母親はその子が成長して自立するまでの間、養育する責任を負っている。これは世界中の多くの地域で同じであろう。子育てが簡単な仕事でないのは明らかだ。M村の随所で子供をおんぶしたまま腰をかがめて掃き掃除をしたり、薪を手に歩く主婦の姿が見られるし、子供の手を引いて村の集まりや、畑、山の上などに行く主婦の姿も見られる。子供の寝かしつけやおむつ換え、そして目を覚ましたときの着替え、食事の世話といった仕事はみな母親が担っているのである。さらに重要な仕事は、赤ん坊にあんよを教えて歩けるようにすること、そして言葉が少し出てきたら話し方を教えること、さらに赤ん坊が大人の言葉を理解できるようになり、赤ん坊の発する言葉も意味が通じるようになってきたら、昔話やおとぎ話をしてやり、世の中のあらゆる物事を認識させ、善悪や因果のことわりを教えてやる仕事だ。これらを最初に手ほどきするのは母親なのだ。
女性の仕事についても、詳述するにあたって農耕と牧畜に分けて説明しよう。農耕については、種まきのあと、新芽が出てくると、女性たちはM村の上手のヤルナンクと下手のマルナンク、仏塔近くのチョルテンク、向かいの山、畑地などに行って、それぞれの世帯の割り当ての畑で草取りをする。畑の雑草が実をまきちらさないうちに抜く必要がある。草取りには、ケルユル、ニユル、スムユル、ユクシャンの4段階があり、すべての過程を経ると、夏に咲き乱れた花の痕跡すら消えて、秋の黄金色の景色が見られるようになる。畑の雑草を取ったあと、女性たちはさらにそれらを籠に入れて重たそうに家まで運び、天日で乾かし、乾草を作る責任も負う。秋になり畑で熟して黄色く色づいた作物を収穫する責任者も女性が努める。彼女たちは切れ味のよい鎌を素早く動かして畑の作物を刈り取り、束にまとめて畑に並べる。また収穫した作物は脱穀場に広げて天日干しをし、風選をして塵などを取りのぞいてから、袋詰めなどの細かい作業を行う。他に粉ひきの作業や、収穫した菜種から油を搾る作業もある。さらに麦藁は麦藁小屋に、胡麻は胡麻穴に収納し、大根やじゃがいもを収穫して貯蔵する。畑で飼料用の穀類を収穫し、脱穀場で天日干しをしたら、青いまま乾草小屋に収納するといった仕事もある。牧畜関連の仕事については、雌牛の乳を搾り、乳を攪拌してバターをつくり、脱脂乳からチーズをつくる仕事、羊毛をちぎって伸ばし、糸を紡いで織物を織り、袋物を縫う仕事、また牛糞を拾って燃料糞に成形し、羊糞を集めて乾燥させる仕事、雌牛への朝晩の餌や理、雌羊の分娩管理、仔を認識しない母に仔をあてがって乳を飲ませる仕事などがある。まとめると、女性の仕事は細かな仕事の連続で、一つひとつ数え上げるのも難しいほどである。いずれにせよ女性は数多くの細かな仕事の責務を負い、家庭生活に計り知れない大きな貢献をしているのだ。女性たちがこうして仕事をしているからこそ、M村の各世帯の煙突から煙が上がっているのであり、幾歳月もこれを繰り返し、その苦楽の上に、生活が成り立っているのである。