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静かなるマニ石

静かに、しかし確実に山村の人々の暮らしも変わっていく……

ストーリー電気がようやく通ったばかりのチベット・アムド地方の山村の冬。寺でも村でも正月を迎える準備で忙しい。親元を離れて寺で修行している10歳の少年僧は先生のもとで勉強に励むいっぽうで、寺では年下の化身ラマの居室にしかないテレビに興味津々。大晦日、迎えに来た父に連れられて3日間の正月休みに実家に帰ると、家に届いて間もないテレビとビデオに大喜び。正月の伝統行事である村芝居の歌舞劇「ティメー・クンデン」もそっちのけで西遊記のビデオに夢中になる。少年僧は西遊記を先生たちに見せたいと思って家族に頼み込み、テレビとビデオデッキを父の引く馬に載せて寺に戻る。

2人の少年僧

変わりゆくチベットを見つめる温かく静かなまなざし

文・星泉

ペマ・ツェテン監督が手がけた初めての長編劇映画。チベットの山村の素朴な暮らしぶりと、主人公の少年僧をめぐる人々の心温まる交流を温かくも静かなまなざしでとらえた佳作である。この映画にはチベットの人々の暮らしが克明に刻まれているだけでなく、彼らが仏教を支えとしながらも日々何を大切にして生きているのか、そして新しい時代の到来の中で伝統とどう向き合っているのか、ということが丁寧に描かれている。伝統文化と近代化の狭間で生きるチベットの人々の姿をリアルに描き出した作品と言えよう。

2人の僧が話している
映画に込められた思い

この作品には少年僧やその家族、そして僧院の人々の姿が生き生きと描かれており、微笑ましい場面が多々あり、それだけでも十分に楽しめるが、チベットの人々の暮らしと深く結びついている仏教や土地神信仰の様子が全編にわたって表現されているところも見所の一つである。そうした日常生活の細かなところまで表現するため、プロの俳優は使わず、僧侶も化身ラマも村人も「本物」を起用している。映画の舞台は伝統文化を体現する山の僧院と、近代化の影響にさらされている農村を対比的に配置し、主人公の少年僧にその間を行き来させることにより、チベットで今まさに起きていることをくっきりと浮かび上がらせている。タイトルの「静かなるマニ石」は、消えゆく伝統文化を象徴し、マニ石彫りの老人の死は、伝統文化の継承の現状に対する監督自身の危機感を表している。映画の完成後は、ロケ地をはじめ各地の村々を回り、草原など野外にスクリーンを張って上映会を実施し、どこでも鈴なりの大観衆の歓迎を受けたという。

マニ石を掘る人々
写真提供・ペマ・ツェテン監督

映画祭出品・受賞歴

などを受賞している他、サンフランシスコ国際映画祭、ナント三大陸国際映画祭、パリ中国映画祭、ロッテルダム国際映画祭、日中映画祭などでも特別上映された。

本記事は、2013年12月1日刊行のSERNYA vol.1に掲載された記事を転載したものです。

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