ストーリー一人暮らしのツォモばあさんは、村長から生活保護のために借り受けたヤクを放生のため山に放してしまう。しかしそのヤクが盗まれ、問題となる。村長は昨年放生羊を盗んだ隣の草原の若者たちの犯行を疑い、おばあさんを連れて隣の草原の村長に訴えに行く。隣村の村長は若者たちを呼び出し、山神の前で誓いを立てさせるが、若者たちは無実、真犯人は隣村の村長の息子だった。村長は息子に謝罪させようとヤクを引いておばあさんのもとに連れて行く。
北京電影学院の卒業制作として制作され、高く評価された作品である。後の長編で繰り返し用いられるモチーフの原型が凝縮されている佳品。今回諸般の事情で日本語字幕つきで紹介できなかったが、代わりに本書に小説版の翻訳を収録したので是非お読みいただきたい。圧巻は山神の前で村長たちやツォモの見守る中、若者たちが誓いを立てる場面である。経典を掲げ、無実を証明するために白い麦粉を炉に撒き、誓いの言葉を述べながら炉のまわりを回る若者たちの姿から、いにしえより続くチベットの山神信仰のありようを垣間みることができる。その様子を上から下から迫るように撮影した映像はまさに瞠目に値する迫力である。映画の要所要所に挿入された、草原をバックに朗々と響きわたるチベットの女性たちの力強く、美しい歌声も素晴らしい。なお、本作品で撮影を担当したノルペンは、現在ペマ・ツェテン監督のチームが総力を挙げて製作中の最新作でも撮影を担当している。
北京電影学院第3回学生映画祭にてショートフィルム最優秀作品賞、第34回ロッテルダム国際映画祭にてショートフィルム賞を受賞。
本記事は、2013年12月1日刊行のSERNYA vol.1に掲載された記事を転載したものです。