ヒマラヤ南麓に生まれた少年はダライ・ラマの化身と認定されながらも、仏教僧としての生活になじめず、自ら還俗。その後、街に繰り出しては恋に明け暮れ、詩を詠う若者となりました。彼は激動の17世紀を生き、23歳でその数奇な生涯に幕を閉じることとなりました。
そんなダライ・ラマ6世のものとされる(または彼に仮託された)リズム感溢れる6音節4行詩は現在でもチベットの人々に広く愛唱され親しまれています。恋慕、逢瀬、別れ、再会の願い、といった恋愛の諸相ごとにまとめられた構成は、本書のオリジナルです。6世の人生、そして、その詩の特徴に関する2つの解説も収録しています。
2007年に今枝由郎訳による『ダライ・ラマ六世恋愛彷徨詩集』(トランスビュー)が刊行されてから16年。同書に収録された66首の訳を見直し、あらたに34首を加えて100首にし、文庫で刊行いたしました。
ダライ・ラマ6世という人物は日本でももっと知られるべき存在です。解説ではその人生と詩の魅力についても紹介しました。
彼の詩が日本語版でも長く愛されることを願っています。(海老原志穂)