チベットでも屈指の人気を誇るこのベテラン作家は1980年代に産声を上げたチベットの現代文学の誕生と発展の歴史とともに歩んできた人物です。ドライで機知に富んだ文体から紡ぎ出されるブラックユーモアに満ちた作品の数々は日本の読者にもきっと楽しんでいただけるはず。チベットのイメージがガラガラと崩れる「毒」があちこちに仕込まれているのでご注意あれ。生態移民、エイズの流行、官僚政治の腐敗—本書を一読すればなによりもリアルなチベット世界を知ることができます。
およそ30年にわたる作家活動の中で生み出された数多くの作品の中から、珠玉の短編15篇、中編2篇を掲載。訳者による解説つき。
1961年、チベット・アムド地方ソクゾン(中国青海省黄南チベット族自治州河南モンゴル族自治県)の牧畜民家庭に生まれる。祖先はチベット化したモンゴル人で、民族籍もモンゴル族。黄南民族師範学校を卒業後、1983年に短編小説「タシの結婚」(未邦訳)で作家デビュー。青海民族学院、西北民族学院で文学について学んだ後、1986年に故郷に戻り、司法局に勤務しながら創作活動を続ける。その後、県誌編纂所に異動し、県の十年鑑の編纂業務に従事するかたわら数多くの小説を発表する。県誌編纂所所長、档案局局長を経て退職、現在は創作に専念している。チベットの現代文学を代表する作家の一人。作品は様々な言語に翻訳され、国際的にも名高い。代表作に長編小説『赤い嵐』、『僕の二人の父さん』(いずれも未邦訳)など。好きな作家として、ゴーゴリやチェーホフ、カフカや芥川龍之介などを挙げる。
あいにく日本の読者の皆さまに直接お目にかかることはかないませんが、幸いなことにこうして傑作選をお届けすることができました。皆さまが私の小説を通して、チベット現代文学の現状、ひいてはチベットの現在の姿を少しでも知ることができますように。